Transcript 力動的心理療法と
1 ユングとアドラー ・フロイトの弟子として活躍した ・やがてフロイトの考えに疑問を持った ・フロイトはそれを許さず,物別れに終わった ・ユングとアドラーは独自の考えを発展させた ・ユング :性ではなく普遍的無意識に注目。 夢分析を多用。分析心理学を樹立。 ・アドラー:性ではなく劣等感や主体性に注目。 対人関係に注目。個人心理学を樹立。 2 主な精神分析の分派 ・フロイトの死後に発展した。 ・新フロイト派:現実の対人関係を重視。人と社 会との関係から病理を理解する。 ・自我心理学:自我の働きを重視。防衛機制と自 我機能を研究。現実適応を重視。 ・対象関係論:内在化された重要な他者との関係 を重視。境界性人格障害の治療。 ・自己心理学:自己の働きを重視。自己愛性人格 の治療から独特の転移関係を研究。 3 力動的/精神分析的心理療法 ☆精神分析「的」心理療法 →精神分析の考え方と方法を援用した心理療法 …多くの臨床心理士は精神分析家ではない ☆精神分析より面接頻度が少ない:週一回 ☆基本的に対面式の面接を方法として用いる ☆行う期間によって名称も方法も異なる →短期力動的心理療法:24セッション未満 長期力動的心理療法:24セッション以上 ⇒医療経済学的な要請に合わせた工夫 4 力動的心理療法の技法的な特徴 ☆認知行動療法と比較した場合の特徴 ①情動と情動表出への焦点化 ②体験の様相のうち,回避したがるものの探索 ③反復するテーマやパタンの同定 ④過去の経験についての話し合い ⑤対人関係への焦点化 ⑥治療関係への焦点化 ⑦欲望や夢,空想の探索 ⇒技法は患者のニーズや特徴に沿って適用される 5 力動的心理療法の基礎概念 ☆種々の精神分析理論からの援用 ①意識と無意識:こころのかたち ②自我・エス・超自我:こころの働き ③葛藤・不安信号・防衛機制・妥協形成 ④防衛機制:自我による適応メカニズム ⑤内的対象関係:対象関係論 ⑥転移と逆転移:内的対象関係の再現 ⑦治療抵抗:変化への両価的感情 6 葛藤・不安信号・防衛機制・妥協形成 不安信号 超自我 ルール 性欲 攻撃性 エス 欲望 妥協 葛 形成 藤 防 衛 機 制 現 自我 調整役 防衛が過剰になり 柔軟性を失うと, 神経症症状が発現する 実 7 防衛機制:自我による適応メカニズム ☆不安信号を受けて生じる,内的葛藤への対処 ・抑圧:無意識に押し込めて意識から隠す ・投影:自分が持つ否定的感情を,他人が 持っていると知覚すること ・合理化:満たされなかった欲求について 理論的に考えて,正当化すること ・反動形成:無意識に持つ欲望や感情とは 全く正反対の行動をとること ・退行:耐え難い状況において,より幼い 発達段階に,一時的に戻ること 8 内的対象関係:対象関係論 早期の「自己と他者」 の情緒的関係 内在化 内なる声 ↓ 内在化さ れた他者 の言葉 関係に関する表象や予期 ・他者は受け入れてくれるか ・自分は愛されるに値するか 生涯を通じて同じ関係的な モチーフが繰り返えされる 反復 対人関係 の問題 精神病理 現在の人間関係 の背景 9 転移・逆転移:対象関係の再現 過去の関係の中で他者に 向けていた感情や行動 それを向けられていた 他者と似た感情や行動 誘発 理解 再現 転移 クライアント 逆転移 セラピスト 10 治療抵抗:変化への両価的感情 変わりたい 両価的 苦痛を無くしたい 変わりたくない 自分を守ってきた 方法を捨てられない 新しい人生を 生きたい 平衡を保ちたい 治療により,苦痛が直視され,平衡が脅かされる 不快な情動を 回避する防衛 治療に対する 沈黙・話題の無さ 抵抗 遅刻等, ルール違反 表面的な会話 etc 11 力動的心理療法の言語的な介入手段 ☆言語的な介入手段を「表出-支持スペクトラム」で捉える ・表出:無意識を意識化して,症状を積極的に治療する ・支持:無意識を意識化せず,現実適応をサポートする →現代的な精神分析では,支持も重視されている 表出 解釈 支持 詳述の 共感の 忠告と 直面化 明確化 奨励 明示 賞賛 是認 ☆表出的な方法は侵襲的であり,心の安定を崩しかねない →患者の病理が重い場合は,支持的な介入を試みる 12 力動的心理療法の方法:解釈 ☆患者がまだ意識してない事柄を解釈して伝える ・防衛解釈:その人が陥りがちな防衛機制を扱う →非機能的なパターンを解釈し,徹底操作する。 …徹底操作:何度でも指摘する。やりぬく。 ・症状解釈:防衛解釈後,症状の意味を解釈する →症状が生まれた経緯や,症状が果たす役割等 ・転移解釈:面接で再現される対象関係を解釈 ・抵抗解釈:治療の進展と共に生じる抵抗を解釈 ・患者が「情緒的洞察」できるよう助ける。 →患者が意識化しかけているタイミングで解釈 13 防衛解釈:防衛機制のコントロール 現実 防 衛 機 制 辛いことを 避けられる ただし 症状・問題が 維持される 症状への介入 症状への介入 防 防衛機制で 弾かれてしまう 防衛への介入 症状・問題に 介入できる 衛 機 制 14 防衛解釈の例 ☆抑圧防衛の解釈 Cl「(母親は自分を愛さなかったが)まぁ仕方のない ことですよ。母は母で大変だったのでしょう」 Th「この話題になると「仕方ない」という言葉が出ま す。これはどういう事を意味するのでしょうか」 ☆躁的防衛の解釈 Cl「いやほんと!もう生きててもダメっすよ!(シビ アな話題で,極端に多弁かつ明るくなる)」 Th「あなたは感情的に辛い話題になればなるほどと, 明るく話すのですね」 ☆Clがこれを実感し,自分でコントロールできるように なるまで,繰り返し指摘し続ける:徹底操作 15 転移解釈:内的対象関係の変容 ☆関係の記憶たる内的対象関係は,非言語的な手続き的記憶 →そのため,実際に治療関係の中で実演しないと扱えない ☆転移-逆転移を解釈し,対象関係の理解と変容を目指す。 病理的な 変容を 対象関係 目指す 転移 洞察 反証 再現 対象関係 の追体験 解釈 逆転移 16 解釈の見取り図 17 治療同盟の重要性:望ましい治療関係 ☆Bordinによる治療同盟の3要素モデル:協働作業的な関係 Task:課題 変化のために取り組む具体的な活動への合意 Goal:目標 望まれる治療成果の共有 Bond : 絆 治療的2者関係における情緒的な結びつき ☆治療同盟の質が,治療の成果に与える影響に関する研究 ・治療法の違いよりも,治療効果に与える影響が大きい ・患者自身による治療同盟の評価が,最も影響が大きい ・治療への良性の期待が,治療同盟と成果を促進する →慎重に傾聴し,患者への信頼を示す温かな対応が有効 患者の感情を非評価的な態度で探索することが有効 18 力動的心理療法の典型的な目標 ☆患者ごとに主訴は異なるが,一般的な目標も存在する ・葛藤の解決:無意識の葛藤を意識化し,解決する ・真実の探求:現実を直視し,本当の自己を発見する ・内的対象関係の理解:病理的な対象関係が,いかに 患者の対人関係や心的生活に影響するかを理解し, 新たな関係のあり方を模索していく ・無意識的な意味の発見:症状や防衛の意味を探る ・心理化能力の改善:他者の心の状態を推測する能力の 偏りを理解し,不適応的な心理化を改善していく ※協働作業的に目標をすり合わせ,進行と共に見直す ※逆説的だが,目標を強調し過ぎると,行き詰まりやすい 19 力動的心理療法の効果に関するエビデンス ☆背景:実証に基づく心理学的実践(ESPP) →厳密にデザインされた実証研究によって得られた 各種療法の効果についての情報を,事例個別の情報と 組み合わせて実践するという方針:エビデンスの重視 ☆力動的心理療法と,治療効果の実証的なエビデンス →長年,力動的心理療法はESPPの周辺に追いやられていた ・治療法をマニュアル化することの難しさ ・効果測定という方法論への馴染まなさ →無作為割付試験(RCT)実施の難しさ 「力動的心理療法は治療効果のエビデンスが無い」 20 力動的心理療法の効果に関するエビデンス ☆力動的心理療法側の変化と努力 ・マニュアル化された治療方法と効果測定法の整備 ・力動的心理療法に有利な研究方法の提案 →近年,ようやくエビデンスが収集され始めた ☆治療効果のエビデンスを提供する実証研究 ・効果研究:治療を受けていない場合や,他の療法を 受けた場合と,治療効果を比較する研究:RCTが代表 ・プロセス研究:終結までの面接プロセスを細かく分析し 治療のどういった側面が有効か調べる研究 ・実地研究:現場の治療データから効果を調べる研究 ・メタ分析:複数の効果研究をまとめて結論を出す研究 21 力動的心理療法の効果に関するエビデンス ☆力動的心理療法の治療効果 ・うつ病:認知行動療法(CBT)と同程度に有効 ・病的悲嘆:治療を受けない場合と比べて有意に改善 ※重要他者の喪失:解釈,一般他者の喪失:支持 ・パニック障害:リラクセーション法よりも有効 ・社交恐怖:CBTと同程度に有効 ・全般性不安障害:初期はCBTと同等,中期は劣る ・PTSD:行動療法,催眠療法と同程度に有効 ・身体表現性障害:60%以上の患者が十分な改善 ・神経性大食症:CBTと同等か,それ以上に有効 ・パーソナリティ障害:CBTと同程度かそれ以上に有効 →研究数は限られるが,治療効果が支持されている 22 力動的心理療法の効果に関するエビデンス ☆力動的心理療法の何が効果を生むのか:プロセス研究 ・患者自身による治療同盟の評価 ・解釈の正確さ:良好な治療同盟が解釈の正確さを促進 ・セラピスト側の治療方針の一貫性 ・感情のこもった礼節ある口調 ・適切なユーモアの使用(パニック障害の場合) ☆どんな人・どんな場合に,より効くのか ・治療への動機付けが高い場合に,効果が大きい ・治療に現実的な期待を抱いていると,効果が大きい ・患者が治療目標に集中していると,効果が大きい ・質の高い対象関係を示す場合,効果が大きい ・感情表現の量と質が改善すると,全体の効果も大きい 23 力動的心理療法と「エビデンス」 ☆力動的心理療法の専門家集団の風土 →エビデンスを重視しない,職人気質の集団 ☆力動的心理療法家は力動的心理療法だけを行う →エビデンスの無い疾患に対しても実施しがち ☆研究知見の軽視と,実証研究への意欲の低さ →科学的な知見が生かされず,生み出されない ☆専門家集団が,全体として変化していく必要性 →患者の幸福に寄与する援助の追求が課題 24 今日のまとめ ・フロイトは夢分析と症状解釈を重視した ・精神分析の主な分派として,ユング,アドラー,新フロ イト派,自我心理学,対象関係論,自己心理学がある ・力動的心理療法は精神分析の方法と考えを援用している ・防衛解釈→症状解釈・転移解釈・抵抗解釈:徹底操作 ・精神分析的な言葉による介入:支持-表出スペクトラム ・主な防衛機制として,抑圧,投影,合理化,反動形成, 退行などがある。 ・過去の対人関係が治療者との間で反復される現象を転移 や逆転移と呼び,対象関係の反映と考える。 ・治療抵抗には変化への両価的感情が影響しやすい ・力動的心理療法には様々な目的がある。 ・力動的心理療法のエビデンスが提出されてきている